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その遺言書、法的効力がありますか?無効な遺言書にしないために気を付けること


更新日: 2016 . 03.7

「遺言書には無効になるものがある」と聞くと、どうやって遺言書を残せばよいのか気になる方も少なくないでしょう。遺言書が法的効力を発揮するためには厳格な規定があります。単に紙やデータで故人の意向を示すだけでは不十分で、かえって争いの火種になりかねません。遺言書が法的効力を発揮するためには、法律で定められた要件を満たした様式が整っている必要があることを理解しておきましょう。

今回は「遺言書はどのように書けば良いのか」というお話をします。

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相続アドバイザー/事業承継士/宅地建物取引士/2級FP技能士

山口 亜由美

[弁護士法人山下江法律事務所]

遺言書の種類

一般的な遺言の作り方には2通りあります。一つは遺言者本人が全文を自筆し、自力で作る自筆証書遺言(民法968条)です。

これに対し、遺言者が2人以上の証人の立会いのもと、公証人に遺言内容を伝えて遺言書を作成してもらうのが公正証書遺言(民法969条)です。自筆証書遺言に比べると費用がかかるというデメリットはありますが、専門家が作成し、公証役場で保管されるので法的効力への不安は解消されるというメリットがあります。

その他の両者の違いは、次のとおりです。

自筆証書遺言 公正証書遺言
作成する人 自分で手書き 公証人が記述
証人の有無 不要 2人以上が必須
家庭裁判所による検認 必須 不要
保管場所 自分で決められる
※法務局での保管も可能
原本のみ公証役場
作成費用 無料 16,000円~
※財産の総額によって変動

この他にも、秘密証書遺言というものや、特別な方式による遺言もあります。どのような遺言書が必要なのかを検討する際には、ぜひ専門家にご相談ください。

遺言書を準備する人は年々増えている

ところで、公正証書遺言ですが、年々作成する人が増えています。日本公証人連合会の発表によると、令和5年度の作成数は、前年比6.3%増の約11万9千通だそうです。

(引用:日本公証人連合会

また、自筆証書遺言についても、作成件数が増えています。法務局に保管されている件数だけですが、年々増加傾向にあります。

(引用:公益社団法人 生命保険文化センター

「うちは大した財産がないから遺言書はいらないだろう」「家族の仲がいいから、喧嘩しないはず」と思っていると、自分の死後、大きなトラブルに発展しかねません。財産の大小や家族関係はさておいて、円満な相続ができるように用意しておくことがもっとも重要です。

遺言書の作り方には法的ルールがある

遺言に残せる内容も法律で定められていて、それ以外のことを遺言しても法的効力はありません。定められている内容は、次のとおりです。

  • 相続分の指定(民法902条)
  • 遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止(民法908条)
  • 遺贈(民法964条)
  • 遺言執行者の指定(民法1006条)
  • 推定相続人の廃除とその取り消し(民法893条、894条)
  • 子の認知(民法781条2項) などです。

最後に必要なのが、遺言した日を特定できる日付、本人の署名と押印です。先に列挙した以外の内容は、遺言者の遺志として残すことはできますが、法的効力は無いので実現性は乏しいと言えます。遺言書に書けばなんでも思い通りになるわけではない点を覚えておきましょう。

各内容を詳しく解説します。

相続分の指定

特定の相続人に多くの財産を相続させたい場合、遺言書に相続したい人物とその割合を記載することができます。極端なことを言えば、誰かひとりに全財産を相続させることも可能です。

ただし、民法では遺留分と呼ばれる、相続人が最低限受け取れる財産を侵害してはならないという条項があります。遺言書作成の際には、遺留分を侵害しないように配慮しなければならないのです。

遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止

遺産分割方法を遺言で指定することができます。例えば、長男には預貯金を、長女には不動産を相続するという形を指定することが可能です。しかし、遺産分割方法については、相続人全員の同意があれば、遺言を無視して遺産分割協議による分割ができます。

また、相続開始から5年間の遺産分割の禁止も可能です。遺言者の死後まもなくの相続では相続人が揉めそうと言った場合に、クールダウンの期間として利用できます。

遺贈

内縁の妻や孫などの本来相続人に該当しない人に対し、相続財産を取得させられます。これを遺贈と言い、遺言者が相手を指名できるのが特徴です。

ただし、遺贈を巡ってトラブルに発展することもあるため要注意です。特に遺留分に配慮しておかなかければ遺言が無効と判断されてしまうケースもあります。相続人にも最低限受け取ることができる相続財産があることを理解したうえで、遺贈について書き残しましょう。

遺言執行者の指定

遺言執行者とは、相続人の死後に遺言の内容に従って金融機関の名義変更や不動産の相続登記などの必要な手続きを行う人物のことです。遺言に遺言執行者を指定することで、自身の死後速やかに手続きを進められるようになるでしょう。それ以外にも、遺言執行者を指名する権限を特定の人物に指定することもできます。

推定相続人の廃除とその取り消し

推定相続人の廃除とは、生前に虐待・侮辱などを受けた人物を相続人から外して相続をさせない方法です。廃除するとその人物は相続権を失い、相続財産を受け取れなくなります。反対に、推定相続人として廃除した人物の相続権を取り消すこともできます。

子の認知

非嫡出子がいることを遺言書内に書いておくことで、自身の死後に子どもを認知することができます。生前に認知してしまうとトラブルに発展しかねない場合は、遺言で子の認知をしましょう。

認知した子どもには相続権が発生するため、非嫡出子に財産を相続させたい場合は活用してください。認知を行わないと、相続人として認められず、相続財産を取得させられなくなってしまいます。

遺言書には厳格な様式がある

遺言書に書かれた内容を「遺言」(法律用語で「いごん」)と言います。遺言については、その様式が法律で厳格に定められていて、この様式を満たさない遺言は法的に無効となります(民法960条)。なぜなら、遺言の効力が発生した時には、既に遺言を残した当の本人はこの世になく、その真意を確認する術もないからです。

民法で定められている遺言書作成におけるルールは、次のとおりです。

  • 遺言書全文が遺言者の自筆である
  • 作成の日付・作成者の氏名が記載され、押印がなされている
  • 書き間違いの修正や加筆がルールに沿って行われている
  • 必ず紙で残さなければならない

法的に有効な遺言を残すには、これらのルールを厳守して作成する必要があるのです。それぞれ詳しく解説します。

遺言書全文が遺言者の自筆である

自筆証書遺言の場合、遺言書全文が遺言者の自筆であることが絶対条件です。パソコンや音声・動画での遺言は認められておらず、手書きでしたためなければなりません。遺言書が遺言者本人によるものであるかどうかを判断するために、筆跡鑑定が行われる場合があります。遺言書の真贋を判定するためにも、本人の自筆による手書きでなければならないのです。

なお、財産目録だけは、パソコンでの作成が認められています。それ以外は自筆でなければ認められません。自筆証書遺言を作成するのであれば、手間がかかっても全文手書きで遺言を書いてください。

作成の日付・作成者の氏名が記載され、押印がなされている

作成の日付と作成者の氏名、押印がなければ遺言書としての効力が認められません。作成日については「令和6年3月吉日」のように書いてしまうと、日付が特定できないので無効とされてしまいます。必ず日付までしっかりと書いてください。

氏名については、本人の自筆で、なおかつ戸籍に登録されている表記で書かなければなりません。略字や通称では無効と判断されるため、こちらも注意が必要です。押印する印鑑については特に指定がないため、認印でも構いません。押し忘れがないようにだけ注意しましょう。

書き間違いの修正や加筆がルールに沿って行われている

遺言書の修正や加筆についても法律で決められたルールを守る必要があります。例えば加筆する場合は、吹き出しを作って加筆をし、余白部分に「〇文字を加入」と書かなければなりません。訂正の場合は、訂正箇所を二重線で消して近くに押印し、余白部分に「〇文字を削除」と記載する必要があります。

煩雑なため加除訂正で間違ってしまう方も少なくありません。自信がないのであれば無理に修正・加筆しようとせず、最初から書き直したほうが良いでしょう。

必ず紙で残さなければならない

遺言は書面で残す必要があると法律で定められています。時々「父は生前そう言っていた」とか、「それが録音されて残っている」と言う方がいらっしゃいます。しかし、法律で定められた方式を満たしていない以上、法的には無効です。

ですが、遺言が紙で残されている限り、それが何かの裏紙であろうと紙切れであろうと構いません。こんなことから、遺志が書き残されていさえすれば、それが遺言書になると誤解される方がいらっしゃるのでしょう。

繰り返しになりますが、遺言書は法律で決められたルールに沿って書かれたものでなければ、効力を発揮しません。チラシの裏紙や紙切れに書いてあっても構いませんが、自筆証書遺言を法務局に預ける自筆証書遺言補完制度を利用したい場合には、別途、様式に定め※があるので注意が必要です。

※模様の無いA4サイズの白い紙の片面のみ使用、上部5㎜、下部10㎜、左20㎜、右5㎜以上の余白が必要。余白内に総ページ数がわかる様にページ番号を振り(1/2、2/2など)、複数枚数ある場合もホッチキス等で綴じない

遺言書の効力は遺言者が亡くなった時から発生する

遺言書が法的効力を発揮するのは、遺言者が遺言書をしたためたタイミングではなく、遺言者が亡くなった時点です。それまでは遺言書の内容は効力を持っておらず、相続人が相続財産に手を出す権限はありません。仮に推定相続人が遺言者の存命中に発見したとしても、効力を発揮しないことは覚えておく必要があります。

また、遺言には有効期限がない点も覚えておきましょう。数十年前に書かれたものであっても、その遺言が最新のものであれば、その時点で法的効力を発揮します。なお、遺言書は何度も撤回・修正や新規作成が可能です。

遺言書の内容で揉めないためにできること

遺言を残すからには、自分の死後、相続人同士が揉めてほしくないという想いが込められていることでしょう。しかし、内容が法的ルールに従っていなかったり、遺留分に配慮していない内容になってしまうと、かえって相続の火種になりかねません。

もし、遺言書を巡るトラブルを避けたいのであれば、公正証書遺言の作成をおすすめします。遺言書作成に不安を感じているのであればなおさらです。無理に自分で作ろうとせず、専門家の力を借りて、法的効力のある遺言書を残しましょう。

まとめ

遺言書の法的効力について解説してきました。遺言書は、単に故人の遺志を書き残せばいいというものではありません。争族を防ぐためには、しっかりと法律に則った様式で作る必要があります。とはいえ、「遺言書を残そう」と考えることが、争族を回避するための一番大切な第一歩ですから、わからないことがあれば、気軽に専門家に相談してみてください。

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