相続コラム はなまる知恵袋
子どもがいない夫婦の相続問題とは?遺言書の必要性と対策を解説!
更新日: 2021 . 11.10
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更新日: 2021 . 11.10
子どもがいない夫婦が相続を迎える際、思わぬトラブルが発生する可能性があります。特に、法定相続人が配偶者以外に兄弟姉妹や甥姪となる場合、遺産分割協議や法的手続きが複雑化しがちです。このような状況を防ぎ、配偶者に確実に財産を遺すには、遺言書の作成が重要です。
本記事では、子どもがいない夫婦の相続で起こり得る問題や遺言書の役割、その他の対策について解説します。
相続手続サポートセンター長
大野 博満
[セブン合同事務所/相続手続サポートセンター広島]
結論として、子どもがいない夫婦の場合、無用なトラブルを避けるためにも遺言書を用意しておきましょう。「配偶者に全財産を相続させる」などの遺言書があれば、配偶者への相続が容易にできることとなります。
遺留分権利者がいる場合は、請求があれば支払う必要があります。しかし、そもそも兄弟姉妹・甥姪には遺留分がないため、何も支払う必要はありません。また、誰の承諾・同意なく単独で手続きができます。
遺言書には公正証書遺言と自筆証書遺言がありますが、万全を期すのであれば公正証書遺言がおすすめです。詳しくはこちらの記事で解説しています。
【関連記事】自分で作成した遺言書に法的な効力はある?書き方のポイントを解説
子どもがいない場合、相続人が配偶者を除くと兄弟や姉妹、甥や姪になる可能性があります。しかし、以下のような原因で、相続トラブルが発生するケースも珍しくありません。
それぞれどのような理由でトラブルにつながるのかを見てみましょう。
相続人の中に認知症などで法律行為ができない方がいる場合、相続手続きが非常に複雑になります。この場合、家庭裁判所に申し立てて後見人を選任し、後見人が代わりに遺産分割協議へ参加しなければなりません。
後見人には専門職が必要になる場合も多く、毎月の費用が発生する点がデメリットです。また、認知症の相続人の財産管理が長期にわたることから、心理的・物理的負担を理由に親族が協力を拒むケースもあります。こうした状況はトラブルを引き起こしやすいため、何かしらの準備が必要です。
相続人が海外在住の場合、手続きが大きな障害に直面することがあります。連絡が取りづらいだけでなく、たとえ同意を得られたとしても、現地の大使館や領事館に足を運び書類へ署名する必要がある場合もあるのです。時には、数百キロ離れた領事館まで飛行機で移動してもらわなければならないケースもあります。
このような負担が相続人にかかることで、手続きが進まず、相続が長期化する可能性があります。こうした問題を防ぐためにも、遺言書を作成しておくことで相続手続きを円滑に進められるよう備えることが重要です。
相続人同士が不仲な場合、遺産分割協議が難航する場合があります。特に、相続人の一人が押印や同意を拒否した場合、話し合いによる解決が困難となり、家庭裁判所での調停や裁判を視野に入れなければならなくなります。これにより、相続手続きがさらに長期化し、費用や心理的負担も増大するでしょう。
回避するためには、遺言書を事前に作成し、相続人の間での意見の対立を未然に防ぐことが有効です。特に、配偶者に財産を確実に残すための遺言書は、トラブルのない相続を実現するためにも重要なものといえます。
相続人から相続財産を分配してほしいという要望が出された場合、それを無視することはできません。法定相続分に基づく権利の主張であるため、対応が必要です。
特に、相続財産が不動産のみの場合は注意が必要です。不動産に引き続き住み続ける場合でも、相続分に相当する現金を他の相続人に準備する必要が生じることがあります。その結果、夫婦で築いた財産を手放す事態に至る可能性も否定できません。
こうした問題を避けるために、遺言書を用意しましょう。遺言書の中に配偶者に優先的に財産を相続させる旨を明記しておくと効果的です。
相続人の所在が不明な場合、相続手続きは大幅に遅れることがあります。戸籍を取得して住所地を調査し連絡を試みますが、それでも所在が特定できないこともあるのです。その場合、家庭裁判所に申し立てを行い、不在者財産管理人を選任してもらう必要があります。
不在者財産管理人が選任されると、該当する相続人の財産は管理人によって管理されますが、この手続きには時間と費用がかかります。事前に遺言書で相続人を指定しておけば、このような手続きを回避し、スムーズな相続を実現することが可能です。
遺言書を作成することで、相続手続きを大幅に簡略化し、トラブルを防ぐことができます。特に、子どもがいない夫婦の場合、遺言書に「配偶者に全財産を相続させる」と明記することで、配偶者が単独で財産を受け取ることが可能になります。また、法定相続分に関する相続人全員の同意を取り付ける必要がなくなるため、手続きの負担が軽減されるでしょう。
さらに、兄弟姉妹や甥姪は遺留分の請求権がないため、これらの相続人がいる場合でも遺言書があれば配偶者の権利が守られます。遺言書は、家族間の無用な争いを避けるための有効な手段です。
遺言書を作成する際は、法的に有効な形式を守ることが最も重要です。日本では主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、一般的には信頼性が高い公正証書遺言が勧められます。ただし、いくつかの注意点があります。
まず、遺留分への配慮が必要です。遺留分は法定相続人が最低限受け取ることが保障されている権利です。
次に、遺言書の内容は明確で具体的な文言を用いることが重要です。曖昧な表現は、相続人間で解釈が異なり、争いの原因となる可能性があります。財産の種類や分配する相手を詳細に記載し、誤解の余地をなくすよう努めましょう。
また、遺言書作成時には専門家に相談することをおすすめします。弁護士や司法書士に依頼することで、法的な不備や記載ミスを防ぐことができ、遺言書の有効性を確実に保つことができます。特に財産が複雑な場合や法的知識に自信がない場合は、専門家のアドバイスを受けると安心です。
これらの注意点を守りながら遺言書を作成し、定期的に内容を見直すことで、確実でトラブルのない相続を実現できます。
遺言書以外の方法で子どもがいない場合、次の方法を検討してみましょう。
それぞれ詳しく解説します。
生前贈与は、遺産分割をスムーズにするための有効な方法です。贈与税の基礎控除枠(年間110万円)を利用すれば、贈与税の負担を抑えつつ財産を配偶者や他の相続人に移転できます。
また、特に配偶者への贈与については「配偶者控除」が適用され、居住用不動産やその購入資金として最大2,000万円まで贈与税が非課税です。この制度を活用すれば、配偶者が住み慣れた家で生活を続けられる可能性が高まります。
家族信託は、信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みです。高齢になり判断能力が低下した場合でも、信託契約に基づいて財産を管理・運用できます。
信託契約により、特定の財産を配偶者が引き続き利用できるようにしながら、次の相続人への引き渡しを計画的に進められます。
配偶者居住権は、被相続人が所有していた家に配偶者が住み続けられる権利を確保する仕組みです。この権利が認められれば、配偶者は家を売却される心配をせずに生活を続けることができます。
この権利を活用するには、遺言書や家庭裁判所の審判を通じた手続きが必要です。
子どもがいない夫婦の相続には、配偶者以外の相続人が関わることで複雑化しやすい特徴があります。遺産分割協議がスムーズに進まなかったり、認知症の相続人や海外在住の相続人がいることで手続きが遅延したりと、さまざまなトラブルが想定されるでしょう。さらに、相続人間の不仲や所在不明といった問題が、相続手続きの大きな障害となる場合もあります。
こうした課題を解消するためには、遺言書の作成が最も重要です。遺言書によって配偶者への財産相続を明確化すれば、相続手続きの負担を大幅に軽減できます。また、遺言書以外にも、生前贈与や家族信託、配偶者居住権の確保などを組み合わせることで、さらに円滑な相続が可能となります。
早めの準備と適切な対策が、相続トラブルを防ぐ鍵です。専門家の力を借りて計画的に対策を進めることで、配偶者に安心を残すことができるでしょう。
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