相続コラム はなまる知恵袋
養子の相続関係|養子と実子で相続権に違いはある?
更新日: 2024 . 04.30
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更新日: 2024 . 04.30
法定相続人に養子がいる場合、相続にどのような影響があるのか知りたい人もいるでしょう。また、相続において、養子がいることで節税メリットがあると聞いたことがある人もいるかもしれません。養子が絡む相続では、そのメリットとデメリットをしっかり理解しておく必要があります。
本記事では、養子の定義とパターン、養子縁組した場合の相続の流れとメリット・デメリットを解説します。すでに養子を迎えている人や、これから養子を迎えようか考えている人は、ぜひ参考にしてください。
終活ガイド(上級)/相続アドバイザー(上級)
今井 絵美
[弁護士法人山下江法律事務所]
養子縁組とは、親子の血縁関係とは無関係に人為的に親子関係を発生させることです。この関係によって設定された親子関係を、それぞれ「養親(ようしん)」「養子」といいます。また、「養親」に対し、実の親子関係を「実親(じつおや)」「実子」と呼びます。養子縁組の種類と大まかな違いは、以下の2つです。
普通養子縁組 | 特別養子縁組 | |
成立要件 |
※15歳未満の未成年者の場合は家庭裁判所の許可が必須 |
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実親との関係 | 存続 | 消滅 |
相続の権利 | 実親・養親ともに法定相続人の権利を有する | 養親のみ法定相続人の権利を有する |
戸籍上の表記 |
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それぞれの詳細を見てみましょう。
普通養子縁組とは、養子と養親の関係になっても、実親との親子関係が継続される養子縁組です。いわゆる一般的な養子縁組が「普通養子縁組」で、大半がこちらに当てはまります。
普通養子縁組の場合、養親と養子との間に新たな親子関係が生じますが、実親との親子関係が消滅する訳ではありません。普通養子は、養親・実親が亡くなった場合、両方で相続人となります。逆に養子が亡くなった場合、養親・実親ともに相続人となります。
本記事では、特別な脚注がない限り、養子を普通養子縁組で迎えた子どもとします。
特別養子縁組とは、実親との関係が消滅する養子縁組です。特別養子縁組をすると、実親と特別養子に出した子どもとの親子関係が終了します。
法律上は他人同然となるため、養親と養子との間に通常の相続関係が発生するのみです。また、実親と養子がお互いに相続人になることはありません。特別養子縁組は、子どもの福祉の増進を目的とした特殊な養子縁組です。その性質上、虐待やネグレクトなどで実親との同居が不可能と判断された子どもを養子に迎える場合に、特別養子縁組が採用されるケースがあります。
なお、普通養子か特別養子か不明な場合は戸籍謄本から判断できます。気になる場合は調べてみましょう。
結論から言えば、養子がいる場合でも実子と同じように相続が行われます。養子縁組を行う場合、多くは、本来であれば相続人にはならない人物に対し、相続財産を分配したいという思いが背景にあります。よくある相続における養子縁組のパターンは、以下の3つです。
それぞれの目的やメリットを解説します。
孫と養子縁組を結ぶことにより、相続権を与えられます。本来、孫は法定相続人には該当しません。しかし、養子縁組をして養子とすることで、実子と同じ第1順位者として相続人となります。
孫に対しては、生前贈与を使って事実上の相続が可能です。しかし、1年間の非課税枠が110万円と制限が設けられており、超えてしまうと別途贈与税が発生します。このリスクを回避しつつ、確実に相続ができるようにするために養子縁組をするケースがあります。
再婚相手の子ども、つまり連れ子には相続権がありません。血縁関係がないためであり、勘違いをしている人もいます。連れ子を相続人とするには、養子縁組を結ぶ必要があります。養子縁組を結べば、実子同様に相続権を有することになるのです。
その際、実子がいる場合は事前に実子と相談しておくと良いでしょう。実子が養子縁組に否定的だと、相続発生時にトラブルに発展しかねません。実子に納得してもらったうえで養子縁組を結んでください。
子どもの配偶者と養子縁組を結ぶことで、その配偶者を相続人にできます。特に介護などでお世話になった子どもの配偶者に相続させたいと考える場合、この方法を選択することも多いようです。
法律上、被相続人に対しての貢献が認められれば、特別寄与料としての請求ができます。しかし、特別寄与料は計算が難しく、確実に認められるとは限らないことから、養子縁組という手段をとる人も少なくありません。確実に相続財産を渡したいのであれば、養子縁組を検討しても良いでしょう。
法定相続人とは、法律上で定められた相続権を持つ人物のことです。養子縁組をした場合、養子は実子と同じように法定相続人としてカウントされます。例えば、兄弟姉妹が法定相続人となる場合、普通養子は実の兄弟・姉妹、養子縁組による兄弟・姉妹にかかわりなく法定相続人となります。また被相続人としての権利も同様です。
相続分については、兄弟姉妹が相続人のとき、片親だけが同じ兄弟姉妹の相続分は両親ともに同じ兄弟姉妹の2分の1です。養子縁組による兄弟姉妹も同じで、両親ともに養子縁組したか片親とだけ養子縁組したかにより、相続分が異なります。
このように、養子だからと言って法定相続人の順位や相続配分が変わることはありません。
養子縁組を結ぶことで、いくらかの節税メリットを受けられます。主なものは以下の3つです。
それぞれの詳細を見てみましょう。
相続税の基礎控除とは、相続税の対象となる財産の総額から、法定相続人1人につき600万円が控除される仕組みです。計算式は以下のとおりです。
基礎控除額:3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
例えば、実子が2人だけだと4,200万円の相続税の基礎控除額が、養子が1人加わることにより4,800万円になります。法定相続人が増えると基礎控除額が大きくなるため、節税メリットも大きくなるのです。
ただし、相続税の基礎控除額を算定する法定相続人として認められる人数には、次のような決まりがあります。
上記のルールは連れ子の養子縁組や特別養子縁組には適用されません。これらの縁組による養子は、相続税法上も実子と同様の扱いであると覚えておくと良いでしょう。
生命保険金と死亡退職金の非課税控除額が増額されるのもメリットです。相続税の基礎控除額と同じく、法定相続人が増えると、その分控除額が大きくなります。計算式は以下のとおりです。
基礎控除額:500万円×法定相続人の人数
生命保険金と死亡退職金は、法律上「みなし相続財産」とされており、相続税の課税対象です。しかし、上記の2種類は法定相続人の人数分だけ控除が可能なため、養子縁組をすることで得られる節税メリットは大きいといえます。
この時も、基礎控除算定の対象となる養子の数に制限があるのは、相続税の基礎控除額の算定の場合と同様です。
節税メリットが大きな養子縁組ですが、一方で考慮すべきデメリットもあります。代表的なものは以下のとおりです。
それぞれの詳細を見てみましょう。
当然ですが、法定相続人が増えれば、ひとりあたりが相続できる相続財産は少なくなります。例えば3,000万円の相続財産がある場合、実子2人のみが相続人であればそれぞれ1,500万円ずつです。しかし、養子が1人加わると相続人は3人となり、相続財産は1,000万円ずつとなります。
養子縁組をすることにより、実子は相続する財産が少なくなります。このことは、多くの場合で、実子が養子縁組に反対する理由となっています。実子の理解が得られていなかった養子縁組による養子を交えた遺産分割協議は、難航する恐れもあるでしょう。養子が法定相続人に含まれる場合は、遺言書を作成するなど、事前によく話し合った上で対処をしておくと良いでしょう。
孫を養子縁組して養子とした場合、相続税が2割加算されるという相続税法上の決まりがあります。本来、相続とは親から子へ財産を継承する形が基本形です。しかし、孫を養子縁組して養子とすることで、子(この場合の養子の親)の代で起こるはずだった相続税の課税を免れ、孫養子がいなかった場合に比べると課税対象となる相続財産が少なくなります
これらに対処すべく、孫を養子縁組しても相続税が2割加算されることになります。血縁関係にある孫へ養子縁組をして相続する場合、相続税が2割増額されることを覚えておきましょう。
レアケースとして、相続税が増額される可能性があります。法定相続人が少なくなることで発生するもので、起こるのは非常にまれです。例えば以下のようなパターンの場合、相続税が増額となってしまいます。
子どもがいない養子縁組前では、第三順位の相続人である兄弟姉妹の代襲相続をする甥姪2人が相続人であったところ、養子縁組により第一順位の相続人である子が1人ができたことにより、残る甥姪の一人が相続人でなくなるります。そうすると法定相続人の人数が減ってしまうことから、受けられる基礎控除額が少なくなり、実質的に相続税が増額されるのです。養子縁組しないほうが節税メリットが大きい場合もあるため、節税のために養子縁組をすることを考えている場合は要注意です。
養子縁組を行う場合は、戸籍謄本などの必要な書類をまとめて、市区町村の戸籍を管理する部署に提出します。書類発行の際に数百円の手数料や収入印紙代がかかるものの、多額の費用が必要になるわけではありません。
なお、未成年者を普通養子縁組する場合は、事前に家庭裁判所から許可をもらう必要があります。また、特別養子縁組の場合は普通養子縁組とは異なる手続きが必要になるため、注意してください。
この養子縁組が明らかに相続税対策と見なされる場合、否認される可能性があります。明確な基準はありませんが、被相続人となる人が亡くなる直前に慌てて養子縁組をしようとするようなものが、これに当たるようです。あからさまな相続税対策にならないよう、事前にメリットやデメリットを理解したうえで、計画的に養子縁組を結ぶかどうか判断しましょう。
代襲相続とは、既に死亡した子どもに子ども(孫)がいる場合、孫が子どもに代わって相続することです。本来相続する予定だった子どもが被相続人より先に亡くなっているため、その権利が被相続人から見た孫に移ります。
養子縁組において養子が養親より先に死亡した場合は、事情が異なります。養子の子の出生(または養子と養子の子の間の養子縁組)が、養子縁組の先か後で答えが異なるのです。養子縁組前の子どもは代襲相続人になりません。養子縁組前の子供は実親の代襲相続人になり、養親の代襲相続人ではない点に注意してください。
養子の相続については、節税メリットがある側面もあれば、デメリットになる部分もあります。安易に養子にして相続権を発生させると、後から大きなトラブルに発展する恐れもあります。
事前に家族と相談したうえで養子縁組をするか否かを決め、メリット・デメリットを意識しながら最終判断を下しましょう。養子の相続についてわからないことや不明な点があれば、ぜひ気軽に専門家にご相談ください。
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