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遺言書で遺産を一人に相続することは可能?起こりうるトラブルと対策


更新日: 2025 . 01.7

遺産相続の際、遺言書で指示を出しておき、遺産をすべて一人に相続させたいと感じるケースがあるかもしれません。しかし同時に、現実として一人に遺産相続させることは可能なのか、疑問に思う人もいるでしょう。

本記事では、遺言書ですべての遺産を一人に相続させると指示があった場合、実現するのかどうかを解説します。また、同時に起こり得るトラブルと対策も解説するため、参考にして、スムーズで納得感のある遺産相続を実現しましょう。

担 当
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紛争事案だけでなく、紛争予防のためのアドバイスも行います


弁護士

宮部 明典

[弁護士法人山下江法律事務所]

遺言書で遺産を一人に相続させることは可能

結論として、遺言書の法的効力を活用し、遺産を一人に相続させることは可能です。

ただし、他にも法定相続人がいる場合、該当者の遺留分を侵害したとして、遺留分侵害額請求を起こされる場合があります。そのため、100%一人への遺産相続が実現するとは断言できないのが、実際の所です。

遺産を一人に相続させたいときに考えられる5つの理由

遺産を一人に相続させたいとき、主に以下のような理由が考えられます。

  • 配偶者にすべての財産を相続したいから
  • ほかの相続人に遺産を相続したくない事情があるから
  • 第三者に寄贈したいから
  • 跡取りとなる子どもに相続したいから
  • 手続きが楽になる場合があるから

上記はあくまで、よく見受けられる理由です。上記に当てはまらない何らかの理由があったとしても、おかしいことではありません。

配偶者にすべての財産を相続したいから

結婚しているが子供はいないなどの場合、遺産相続の対象を配偶者のみにしたいと考える人はしばしば見受けられます。ただし、その場合は遺言書でその旨を指示しておいたほうが確実です。

民法において、配偶者は遺産相続の権利を必ず持つ存在です。しかし一方で、すべての財産を必ず配偶者が相続できるわけではありません。子孫がいれば子孫、子孫がいなければ尊属(両親や祖父母)、尊属もいなければ兄弟と甥姪というように、配偶者と親族で分けることになります。

そのため、遺言書なしで配偶者にすべての財産を相続してもらうには、被相続人に親族がまったくいない状態でなくてはなりません。親族がいる場合はその人も法定相続人となってしまうため、遺言書で配偶者にすべてを相続させると指定する必要があります。

ほかの相続人に遺産を相続したくない事情があるから

特定の一人以外に財産を相続させたくない、と強く思う事情がある場合なども該当します。

具体的な例としては、他の相続人候補者と不仲で財産を残したくない場合などです。また、生前に十分金銭的援助を行って、これ以上財産を譲る理由が無いと考えた場合なども当てはまります。

民法で定められた法定相続人は、被相続人と法定相続人の戸籍上の関係によって決められるものです。被相続人から法定相続人への感情の良し悪しや、過去の援助の額などはまったく考慮されません。

そのため、遺産を相続させたくない人がいる場合は、誰に何を相続させるかあらかじめ決めておき、遺言書に明記しておいたほうが得策です。

第三者に寄贈したいから

法定相続人に該当しない、第三者に遺産を譲りたいという場合も考えられます。特定の誰かに深い恩がある場合や、懇意にしている団体などに寄付をしたいと考えている場合も該当します。

第三者に遺産を相続させたい場合、遺言書での指示が必須です。遺言書が無い場合、第三者に遺産が分けられる可能性は0になってしまうため、注意してください

また、遺言書に記載があったとしても、法定相続人に該当する人物がいる場合は、遺留分侵害額請求を行われる可能性があります。そのため、遺産相続自体はできたものの、すべてを相続させることはできなったというケースも起こり得ます。

跡取りとなる子どもに相続したいから

代々受け継いできた遺産や経営している会社などがある場合、跡取りとなる子供にすべてを相続させたいという人もいます。

現在の民法では家督相続制度がなくなっており、長男以外の子供も平等に遺産を受け取る権利があります。そのため、遺言書がない状態で、跡取りとなる子供に遺産をすべて相続させることはできません。

ただし、遺言書で指示を残したとしても、現在の民法において跡取り以外の親族も法定相続人に該当することは変わりません。そのため、遺留分侵害額請求を行われるリスクは考慮しておきましょう。

手続きが楽になる場合があるから

複数人に遺産を相続させるより、すべてを一人に相続させたほうが、手続きが楽になるというケースもあります。

代表的な例は、遺産が不動産など、物理的に分けにくいものである場合です。分けにくい財産は、最終的に残された法定相続人同士で話し合って、どう扱うか結論を出す他ないというケースが見受けられます。結果として揉め事になり、相続が進まなくなることも少なくありません。

売却してお金に変えてから分けたり、共有名義で相続させたりなど、複数人で平等に分ける方法もいくつかあります。ただし、いずれも手間がかかったり、将来的にトラブルになりやすいなどのリスクがあります。

後のトラブルを防ぐという意味でも、人数分での分割が難しそうな財産に対しては、遺言書で相続の方針を指示しておくのがおすすめです。

遺言書で遺産を一人に相続する場合の注意点3つ

遺言書で遺産を一人に相続する場合、以下3つの注意点を考慮してください。

  • ほかの相続人が遺言書の無効を主張する可能性がある
  • 相続人が遺留分侵害額請求を受けるリスクがある
  • 相続税が高額になる可能性がある

トラブルが起こりにくいようにするには、被相続人が生前の段階で法定相続人の理解を促したり、相続税のことを踏まえて遺言書の内容を考えたりなどの行動を取る必要があります。

ほかの相続人が遺言書の無効を主張する可能性がある

ほかの法定相続人が、遺言書の無効を主張する可能性は低くありません。他の相続人としては、法定相続人の立場でありながら自分に遺産の取り分が無いことになるため、不満から遺言書自体を無効と主張するケースがあるのです。

特に、遺言書の形式が自筆証書遺言である場合は注意が必要です。自筆証書遺言はすべてを自力で作成する遺言であるため、書式などに間違いがあり、法的な有効性が認められないとみなされてしまう可能性があります。

遺言書の法的効力を確実なものにするには、公正証書遺言がおすすめです。公正証書遺言は、被相続人の希望した内容で専門家が遺言書を作成するため、記載ミスなどで効力がなくなるリスクを払拭できます。

相続人が遺留分侵害額請求を受けるリスクがある

遺産を相続する相続人が、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクもあります。

法定相続人には、民法で最低限割り当てられる遺産の取り分が定められています。これが、遺留分です。一般的に遺言書は強い法的拘束力を持っていますが、遺言書の内容が他人の遺留分を侵害する場合、侵害を受けた相続人は遺留分侵害請求を起こす権利があります

ただし、遺留分侵害請求は義務ではありません。そのため、一人の相続人がすべてを相続することに対し、周囲が納得していれば請求は起こりません。

相続税が高額になる可能性がある

一人が遺産をすべて相続する場合、相続税が高額になる可能性があります。

相続税の額は、遺産の総額に影響を受けます。相続する遺産の額が大きいほど、支払う相続税も高額になっていく構造です。以下の表を参考にしてください。

相続税の速算表

【引用:国税庁公式HP

そのため、節税という観点からは、一人に遺産を集中させず、複数の相続人に分配するほうが良いという考え方もできます。

最終的には被相続人の意志が重要となりますが、安易に相続人を絞るのではなく、税のことも踏まえて熟慮することをおすすめします。

遺言書で遺産を一人に相続したい場合のトラブル対策4つ

遺言書で遺産を一人に相続させたい場合のトラブル対策として、以下4つを解説します。

  • 遺留分を差し引いた財産を一人に相続させる
  • 一人に相続させたい理由を明記する
  • 遺留分の放棄を打診する
  • 遺言執行者を専門家に依頼しておく

ただし、方法によっては、100%すべての財産を一人に相続させることができません。しっかり検討したうえで、できる対策を取ってください。

遺留分を差し引いた財産を一人に相続させる

あらかじめ遺留分を財産から差し引いておき、残りをすべて一人に相続させる方法があります。

遺留分は遺言書よりも効力が強いため、遺留分の主張をされた場合、遺言書の指示が覆る可能性は低くありません。一方で、遺留分以上の遺産の主張は困難であるため、あらかじめ遺留分を差し引いておくことで、相続時に揉める事態を回避できます。

ただし、実質すべての財産を一人に相続させることはできないため、その点を踏まえて検討してください。

一人に相続させたい理由を明記する

一人に相続させたい理由を遺言書に明記するのも、有効な方法です。法的には付言事項と呼ばれます。

簡単に表現すると補足説明のようなものであり、なくても構いません。また、付言事項が書いてあったからといって、相続人が従う義務もありません。

一方で、被相続人がどういった考えから結論を出したのか、相続人に知ってもらうことには意義があります。単純に「あなたに遺産はありません」と言われると納得しづらいものですが、理由がわかり納得できれば、遺言書に従う気持ちになりやすいでしょう。

遺留分の放棄を打診する

遺留分を放棄するよう、あらかじめ打診することも可能です。

遺留分は権利であるため、本人が放棄しようと考えれば放棄できます。一度放棄すると、後から取り消しはできません。さらに、遺留分の放棄は、被相続人が死亡する前であっても可能です。

そのため、被相続人が生存している段階で、相続人に遺留分を放棄するよう打診することは有効です。説得によって、あらかじめ遺留分を放棄してもらえれば、相続の際も遺留分侵害請求を起こされることなく、任意の一人にすべての遺産を相続させられます。

遺言執行者を専門家に依頼しておく

遺言執行者の役割を、専門家に依頼しておくのもおすすめです。遺言執行者とは、被相続人亡き後、遺言内容を実現するために動いてくれる人です。

遺言執行者は、被相続人が選任します。未成年者や破産者でない限り、原則誰でも選べますが、遺言を確実に執行するためには、弁護士など専門家に依頼したほうが良いでしょう。遺産相続が起きた後だけでなく、相続前の段階から、専門知識を駆使してアドバイスやサポートをしてくれます。また、遺産相続が始まってからトラブルが起こった際にも、解決のサポートを依頼できます。

遺産を一人に相続したい場合ははなまる相続に相談を

遺産を一人に相続したい場合は、はなまる相続にご相談ください。

遺産相続の際は、遺産をめぐったトラブルが起きやすいものです。遺産を一人に相続したい場合は、なおさら揉めやすくなることが予想されます。

はなまる相続では、遺産相続のプロがサポートにあたります。遺産を一人に相続させる際に起こりがちなトラブル対策や、手続きの依頼を受付可能です。くわえて、相続に関する悩み相談や、すでに起こっているトラブルの解決など、諸々のタスクをトータルで依頼していただけます。

現在すでにお悩みを抱えている方だけでなく、将来的なことを相談したいという方も、ぜひお気軽にご連絡ください。

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