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自分と家族が絶対に後悔しない備え方をお伝えします


司法書士

水野 昌典

[司法書士法人水野合同事務所]

 

ご家族

:「何とかならないんですか?」

水野司法書士

:「この状況になってはもう打つ手は有りません。」

 

相続対策のお話を4000人以上にしていると、たくさんの悲しい事例に出会います。

その一つの事例を紹介します。

 

 

金融機関の担当者から紹介を受けてお会いした家族(老夫婦とご長女の3人)です。

 

お父さんは85歳ですが、とても若々しく、毎日朝、車でスポーツセンターに行ってプールや自転車で運動されていました。お会いした日は株価が激しく下落していた時でした。

 

水野司法書士

:「お父さん、とても若々しいですね。」

お父さん

:「いやいや、もう85だからいつお迎えがくるかわからないよ。」

お父さん

:「ところで、水野先生、株やってます?」

水野司法書士

:「少し買ったことがあるんですが、ホント才能がないことを自覚してもうする気しないんです・・」

お父さん

:「私はね、毎日気になる銘柄の株価を書いてて」

 

と言って、新聞の折り込みチラシの裏側に株価をびっちり書いてあるチラシを何枚も見せて、

「教えてあげるよと」ニヤニヤしながらお話しするお父さんでした。

 

 

お母さんは、そんなお父さんにお金の管理をすべて任せて、

「私はずっと専業主婦だったし、株とかお金とか全く興味ないのよ。」

と言いながらお父さんのお話をニコニコしながら「うんうん」と聞いているお母さんでした。

 

長女さんは、二人の子供が大学を卒業し、東京と福岡でそれぞれ大手の会社に就職し、サラリーマンのご主人と二人で老夫婦がいる近くにご自宅を構えて生活されていました。

 

相談は、長女さんが、銀行主催の相続対策セミナーを受けて、今まで相続対策について何も考えてきていないことをご心配になったことがきっかけでした。

 

 

相続対策は大きく分けて「争族」対策と「相続税」対策とありますが、このご家族は老夫婦と一人娘の長女さんですので、「争族」対策も不要ですし、「相続税」対策についても、このご相談を機に金融機関の専門チームが対応されてましたので十分でした。

 

 

では、何が印象的だったか。

 

「銀行口座がロックする」という事実を知りながら手遅れになったことです。

 

よく「銀行口座がロックする」というお話を聞くことがありますが、どんな時に「銀行口座がロックする」のでしょうか?

 

「人が亡くなった時」。

間違いありません。

それ以外にあるでしょうか?

そうなんです。

「お話ができる状態ではなくなった時」。

この状態になった時も「銀行口座がロックする」のです。

 

毎日スポーツセンターで運動し、株価のチェックをするお父さんはとても若々しく、「争族対策」も「相続税対策」も十分なご家族ですから、

ご家族の皆さんは

「ウチは大丈夫」

と安心されていました。

お母さんは専業主婦で、お金の管理にも無頓着でしたので、老夫婦の財産は全てお父さんが管理し、お父さん名義になっていました。

 

そこで

 

水野司法書士

:「お父さんが、万が一脳梗塞で倒れられたらどうなるかご存じです?」

ご家族

:「どうなるの?」

水野司法書士

:「株は売り買いできなくなりますよね」

ご家族

:「そりゃそうですね。」

水野司法書士

:「銀行にあるお金、今どうやっておろしています?」

お父さん

:「今はワシが窓口で下ろしてもらってる。でもそろそろ、銀行の預金については、娘に一部任せてもよいのかなぁと思い始めたところだ。」

水野司法書士

:「そうですか。もし、明日お父さんが脳梗塞で倒れたら、預金、誰が下ろしに行きます」

お父さん

:「そりゃ、ワシが倒れたら妻も大変だろうから、娘が行くことになると思う」

水野司法書士

:「そうですか。銀行は、娘さん行ったら、お父さんの口座からお金出してくれますかね?」

お父さん

:「・・・・」

水野司法書士

:「・・・・」

 

数秒間沈黙が続いたのち、

 

水野司法書士

:「娘さんが行ってお金出してくれたらよいけど、もしかしたら出してくれないかもしれませんよね。」

お父さん

:「・・・・」

お父さん

:「カード作って娘に渡しておいたら良いのか?」

水野司法書士

:「世間の皆さんがよくやっている一つの方法ですね。」

お父さん

:「こんな話、珍しい話でも無いだろう。世間ではこんな時どうやっているんだ?」

水野司法書士

:「もし、なにも準備してないければ、お金下せなくなって困りますよね。そんな時は、成年後見人という手続きを取ります。」

お父さん

:「あっ。成年後見は知っている。」

水野司法書士

:「ご存じですか?」

お父さん

:「義理の兄である私の姉の夫が認知症になった。施設に入所する際に案内されて義兄のために、成年後見人を付けたけど、成年後見人に見ず知らずの司法書士がなったうえに、その司法書士からお金の管理のことであれこれと難癖をつけられて、自分の夫のお金なのになんでこんな制限されるのかと、姉は病気になりそうだと言っていた。」

水野司法書士

:「そういった事例もあるようなんです。お父さんがもし、明日脳梗塞になったら後見人を付けざるを得ないかもしれませんね。」

水野司法書士

:「このまま放置だと、もしかしたら大変なことになるかもしれませんが、対策を考える意思はありますか?」

お父さん

:「まだまだ元気だから、おいおい考えるよ。」

 

「いやいや、もう85だからいつお迎えがくるかわからないよ。」と言っていたお父さんだけど・・と思いながら、私はこれ以上お話しても、専門家の声が届かない状態になったことが判断して、

「もし、倒れた時の対策が必要だと思われたら連絡くださいね。」

とお父さんとご家族に言い残して相談を終えました。

 

 

半年後、娘さんから電話がありました。

長女:「半年前に水野先生がお話しされていた、倒れた時の対策について、改めて相談したいんです。」

 

 

半年後にあったお父さんは、全く別人でした。

お父さんは脳梗塞を発症し、病院のベッドに横たわっています。ニヤニヤと株の話をしていた元気のよかったお父さんは見る影もなく、無表情で空中を見ていました。

 

長女

:「銀行のお金、下せなくて困っているんです。」

水野司法書士

:「そうですか。」

長女

:「どうやったら良いでしょう?」

水野司法書士

:「この状況では二つです。一つは、意識が回復するのを待つ方法。もう一つは、成年後見人の手続きを取る方法」

長女

:「意識はほぼ戻ることはないと言われました。とすると、成年後見人ですか。成年後見人は伯母の件があって、避けたいのです。」

長女

:「何とかならないんですか?」

水野司法書士

:「この状況になっては、成年後見人以外、手は有りません。」

ご家族

:「・・・」

 

 

 

元気なうちであれば、判断能力が無くなる場合に備えた「家族信託」や、銀行の商品があります。けれど判断能力が無くなると、選択肢はほぼありません。

 

今回の事例のように、こうなることがわかって、備えをしなかった後悔をするご家族もいらっしゃいますし、こうなること自体を知らないご家族もたくさんいらっしゃいます。

 

このコラムを読んだ皆さんが、自分の場合に置き換えてどんな準備をするべきか、考えるきっかけになれば嬉しいです。

 

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