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相続人に未成年者がいたら?特別代理人と利益相反の考え方を知ろう


更新日: 2024 . 07.31

遺産分割協議は相続人全員でする、というのは、相続において一般的な決まり事です。しかし、未成年者が相続人に含まれる場合は事情が異なります。未成年者が相続人となる場合に備え、特別代理人と利益相反について理解しておく必要があるでしょう。

本記事では、特別代理人の詳細と利益相反の考え方を解説します。未成年者を含む相続が発生した時に慌てなくてもいいよう、ぜひ本記事を参考にしてください。

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弁護士

吉村 航

[弁護士法人山下江法律事務所]

未成年者は単独で法律行為ができない

一般に、未成年(18歳未満)は法律行為をすることができません。つまり、相続人となった未成年者は単独で相続関係の手続きを進められないということになります。事実、民法第5条にて「未成年者の法律行為」で定められており、家族の一存でどうなるというものでもありません。

これは、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないにもかかわらず、これが法律行為であるが故に、未成年者は参加できないということを意味します。そのため、未成年者の相続人に必要となってくるのが代理人です。

代理人の種類

相続における代理人は、以下の2つがあります。

  • 法定代理人
  • 特別代理人

法定代理人とは、未成年者に代わって法律行為を行う人物のことです。多くの場合、未成年者の法定代理人になるのは親ですので、遺産分割協議における代理人として、まず最初に考えられるのは親です。

これに対して特別代理人とは、親ではない相続権のない人物が未成年者に代わって法律行為を行う代理人のことです。一見よく似ている制度ですが、特別代理人は未成年者と法定代理人の間で利害関係の衝突が発生しないようにする制度です。詳しくは、次章で解説します。

未成年者の相続の際は利益相反に注意

ただし、未成年者が相続人に含まれている場合、注意しなければならないのが利益相反です。利益相反とは、二者の利益が互いに対立することをいいます。未成年の相続においては、法定代理人である親が子どもとともに相続人(共同相続人)であった場合には、親が自分自身の相続分を多くすると必然的に子どもの相続分が減る、つまり、親は子どもの権利を侵害して自由に自分の相続分を決められるという状況が発生します。

具体例を出しましょう。例えば、両親に子のある家庭で父が亡くなった場合、相続人は母と子なので母子が遺産分割協議をすることになります。この時、子が未成年であった場合、母がの代理をしては、母子の間で遺産分割に関する利益が相反してしまいます。

そのため、親と子どもの利益相反が発生する場合、親が子どもに代わって遺産分割協議をしても無効とされるのです。未成年とはいえ法律上の相続人であることは変わらず、相続財産を平等に受け取る権利があります。これを保障するために設けられているのが特別代理人なのです。

未成年者の特別代理人とは

未成年者の特別代理人とは、相続人である人物が未成年であり、なおかつ親権者も相続人に含まれる場合に選任する代理人のことです。先述のとおり、親が自身の利益のために子どもの権利を侵害しないために選任する代理人です。

特別代理人は、相続人である未成年者の人数分選任しなければなりません。詳しい選任方法は「特別代理人の選任方法」で解説します。

特別代理人が担う役割

特別代理人の役割は、主に以下の4つです。

  • 遺産分割協議への参加
  • 未成年相続人の権利の保護
  • 遺産分割協議書への署名・捺印
  • その他必要な手続きの代行

大前提として、未成年者の親権を持つ共同相続人は、利益相反を防止するため特別代理人にはなれません。 遺産分割協議は特別代理人が選任されてから進めることになります。

特別代理人は、未成年者の相続人に代わり、相続に関連するすべてを担う人であることを覚えておきましょう。

特別代理人になれる人物

特別代理人になるために必要な資格などはありません。一般的には相続人になっていない親族を候補者にしますが、親族内に適任者がいなければ友人・知人を候補者とすることもできます。

ただし、特別代理人は遺産分割協議への参加や協議後の手続き代行などの仕事があります。これらの仕事をまっとうできる人物でなければ、特別代理人にふさわしいとはいえません。最終的に家庭裁判所の判断をあおぐことになりますが、この点も十分考慮して候補者を選任しましょう。

なお、候補者の中に適任者がいないと家庭裁判所が判断した場合、家庭裁判所が弁護士を選任します。一見すると便利ではありますが、選任される弁護士が誰なのか、相性は問題ないかなどはわかりません。心配な場合は、前もって専門家に相談することをおすすめします。

特別代理人の選任方法

特別代理人を選任するには、所定の手続きを踏まなければなりません。また、選任するにあたって必要な書類や費用が発生します。前述のとおり、 遺産分割協議は特別代理人が選任されないと始められませんので、特別代理人を選任する手続きについて、前もって理解し、早めに準備をしておきましょう。

手続き

特別代理人の選任は、親権者若しくは利害関係者が、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行うところから始まります。その際、出せる場合は候補者を一覧にまとめ、家庭裁判所へ提出してください。

家庭裁判所での審理は約1か月ほどで結果が出ます。問題がなければ候補者の中から特別代理人が選任される流れです。選任された特別代理人には、後日「特別代理人選任審判書」が届きます。書類不備などがあった場合には、追加での書類提出を求められたり、回答書の提出が必要になったりする場合もあります。

必要書類

特別代理人の選任には、以下の書類の提出が必要です。

  • 申立書
  • 未成年者の戸籍謄本
  • 親権者の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票もしくは戸籍附票
  • 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案)
  • 利害関係を証明できる書類(利害関係者からの申立の場合のみ)

申立書は、家庭裁判所のホームページからダウンロードできます。それ以外に必要な書類は市区町村の役所窓口で手に入るものがほとんどです。

気を付けたいのが、利益相反に関する資料です。ほとんどの場合、遺産分割協議書の案を提出しますが、この作成に時間がかかるため、早めに準備しましょう。基本的には法定相続分に従った分割案になっていれば理想的です。もし何かしらの事情で配偶者が多く遺産を相続する事由があれば、それを記載しておいた方が良いでしょう。

これらの書類を揃えて家庭裁判所に申立を行ってください。

費用

特別代理人の選任申立を行う際には、未成年者1人につき、以下の費用が発生します。

  • 収入印紙800円分
  • 返信用封筒の切手代
  • 戸籍謄本などの必要書類の取得費用

ほかに考えられるケースとして、以下の場合が考えられます。その場合、かかる費用も変わってくるため注意が必要です。

  • 申立を専門家に依頼する:申立にかかる報酬が発生
  • 専門家を候補者にして選任された:特別代理人の業務にかかる報酬が発生
  • 裁判所が専門家を選任した:予納金として報酬が発生

実際にいくらかかるのかは専門家によって異なります。申立や候補者を専門家に依頼したい場合は、事前に専門家へ相談しておくのがおすすめです。

選任後

特別代理人が選任されたら、いよいよ遺産分割協議が始まります。実際に協議に参加して作成された遺産分割協議書に署名・捺印します。特別代理人は遺産分割協議の終了をもって任務は終了です。利害の対立が発生しない限り、遺産分割協議以降は法定代理人が未成年者の代理を務めます。

万が一、遺産分割協議後に利害の対立が発生した場合は、その話し合いに参加しなければなりません。親族や友人・知人に任せるのが不安な場合は、専門家に特別代理人になってもらい、トラブルを回避するのもひとつの方法です。

特別代理人が不要なケース

基本的に未成年者が相続人である場合に選任しなければならない特別代理人ですが、以下の条件に該当する場合は特別代理人の選任は不要です。

  • 何らかの事情で親権者が相続人ではないケース(祖父の相続で父が先に死亡しており、子のみが相続人の場合など)
  • 遺産分割協議を行わないケース(遺言書がある場合など)
  • 親権者が相続放棄するケース

どういった場合に親権者が相続人ではないケースが起こりえるかというと、例えば、離婚した両親のうち父が死亡した場合、母は相続発生時点で父の配偶者ではないため、相続人ではありません。ゆえに、母はこの法定代理人として遺産分割協議に参加できます。ただし、子が複数であった場合、子ども同士で利益相反が起きるため、母は全ての子どもの法定代理人になることができない点に注意が必要です。

また、法定相続分に従った相続を行う場合や遺言書の内容に従う場合など、遺産分割協議が不要な場合には特別代理人の選任も必要ありません

ただし、相続財産に不動産が含まれ、その評価額について複数の判断が可能であるなど、のちのちトラブルにつながりかねない財産が含まれる場合もあります。そのような場合は、遺産分割協議で相続分を決めたほうが良いでしょう。

未成年者の相続は専門家に相談を

未成年の子がいるということは、ご自身もまだ若く「遺言書を書くなんて未だ早い」と思われるかもしれません。しかし、遺言書があると遺産分割協議の手間が省けるだけで無く、特別代理人の選任や共有になった財産のその後の処分にかかる手間も軽減できます。そのようなことを考えると、遺言書の作成はメリットが多いと言えます。

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弁護士

吉村 航

Wataru Yoshimura

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