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認知症患者がいる場合の相続手続きの流れと注意点


更新日: 2024 . 08.31

相続の手続きはただでさえ複雑なものですが、相続人の中に認知症患者がいる場合、さらに難易度が上がります。遺産分割協議は相続人全員でおこなう必要がありますが、相続人の中に認知症患者がいる場合、その方は単独での法律行為ができないために、遺産分割協議ができません。その場合、家庭裁判所において後見人を選任してもらう必要が出てきます。

本記事では、認知症患者がいる場合の相続の流れや注意点、必要となる後見人の選任方法について解説します。推定相続人(相続人になる可能性のある人)に認知症の方がいる場合の参考にしてください。

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「相続対策」「相続手続き」の専門家です


相続手続サポートセンター長

大野 博満

[セブン合同事務所/相続手続サポートセンター広島]

認知症患者が相続に関与する場合の問題点

相続においては、相続人の意思決定能力を考慮する必要があります。認知症患者が相続人に含まれる場合には、考慮すべき点や問題点があり、健常者と同じように相続手続きを実行できません。具体的にどのようなことが問題となるのか見てみましょう。

認知症患者は法律行為ができない

認知症患者が推定相続人に含まれている場合、通常の相続手続きがそのままでは進められない可能性があります。民法では、以下のように規定されています。

民法第3条の2(意思能力)

法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

(引用:民法

つまり、認知症によって意思能力が欠如していると判断された場合、その人は自分の権利を主張する能力が十分でないことから、遺産分割協議に参加したとしても無効となるのです。相続人に認知症患者が含まれる場合に必要な手順を前もって理解しておかなければ、相続手続き全体が遅れることや、トラブルが発生するリスクが高まるでしょう。

相続における意思能力の重要性

先の章でも説明したとおり、相続手続きでは、各相続人が遺産分割協議において自らの意思を示すことが必要です。しかし、認知症患者は意思能力が低下していて、自らの意思を明確に表明することが困難又は全くできない場合も多くあります。

特に、以下の内容は認知症を患う相続人単独ではできないとされています。

  • 遺産分割協議
  • 相続放棄
  • 相続登記・相続税申告

中でも、相続の割合を決定するための遺産分割協議、および遺産分割協議書に署名する際には意思能力(事理弁識能力)が求められます。そもそも、相続に必要な手続きが通常よりも複雑になることも留意しておかなければなりません。認知症によって意思能力が十分でない場合、最初におこなうことになる遺産分割協議自体が無効になる可能性があるためです。

相続人の中に認知症の人がおり、この相続人を含む遺産分割協議を法的に有効なものにするためには、後見人が必要となります。後見人制度については、次章で説明します。

後見人制度とは

後見人制度は、判断能力が不十分な人を法律的に支援するための仕組みです。認知症患者が相続に関わる場合、この制度を利用して相続を進めなければなりません。

先述のとおり、認知症患者など判断能力が十分ではないと判断される人物が単独で法律行為を行うことはできません。そのため、認知症患者が相続人に含まれる場合、後見制度を利用して相続手続きを進める必要があります。

任意後見制度と法定後見制度の違い

後見制度には主に「任意後見制度」「法定後見制度」の2種類があります。

任意後見制度は、認知症になる前に、あらかじめ自分で後見人を選んでおく制度です。一人で判断ができる間に、万が一に備えて後見人を指名しておきます。 自己の生活、療養看護及び財産に関する事務について、代わりにしてもらいたいこと(代理権を付与する事項)を公正証書による契約(任意後見契約)で決めておきます対象となる人物が認知症や障害で正常な判断ができなくなった場合でも、事前に選任していた後見人に相続手続きを進めてもらうことができるのがメリットです。

法定後見制度とは、既に認知症などで判断能力が低下した場合に、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。法定後見制度には、補助・保佐・後見の3種類があり、それぞれできることが異なります。認知症の程度によってどの種類が適用されるかも異なります。選任は家庭裁判所が行うため、本人や他の相続人の意思で決定できない点は覚えておきましょう。

後見人の役割

後見人は、認知症患者の財産や権利の保護を担当します。相続においては患者に代わって意見を述べる、各種手続きをおこなうなどの重要な役割を担います。後見人の主な任務は、認知症患者の利益を最大限に守ることです。認知症を理由に相続で不当な扱いを受けないために、後見人が相続人に代わって手続きを行います。

大前提として、認知症患者は民法により法律行為ができないのは前述したとおりです。有効な遺言書がない限り、遺産分割協議は必要なのですが、認知症を患っている相続人はこれに参加できません。その他、後に続く各手続きもひとりではできないため、後見人が必須となるのです。

後見人申立の流れ

後見人を選任する方法は、任意後見制度と法定後見制度のどちらを利用するかで手続き方法が異なります。具体的には以下のとおりです。

後見人申立の流れ

どちらの制度も、家庭裁判所に申立を行います。申立には、医師の診断書や戸籍謄本、財産目録などが必要です。審理には数ヶ月かかることもあるため、早めの対応が求められます。

認知症患者がいる場合の相続の基本的な流れ

相続手続きは、以下の流れで進められます。

  1. 被相続人の死亡に伴い、相続の開始
  2. 遺言書の有無の確認
  3. 相続財産の調査・評価
  4. 遺産分割協議による相続財産の分割決定
  5. 相続税の申告と納付

認知症患者が相続人の場合も、基本的な流れは同じですが、一部の手続きで特別な対応が求められます。詳しく見てみましょう。

認知症患者が相続人にいる場合の特別な手続き

認知症患者が相続人の場合、意思能力がないために直接遺産分割協議に参加できないことが一般的です。認知症の程度によりますが、正常な判断が困難な場合は、後見人の選任が必要になります。

後見人が選任されると、その後の遺産分割協議は後見人を交えて行われます。後見人は、認知症患者にとって平等な相続になるように協議に参加し、他の相続人とも合意形成を図るのが仕事です。程度によっては、遺産分割協議のあとの手続きを代行することもあります。

前提として、認知症患者は法定相続分相当以上を受けられるような取り決めが行われるよう、慎重な協議が必要です。しかし、実際には認知症患者が自分にとって公正な遺産分割になっているかを判断するのは難しいでしょう。適正に協議を行うためにも、後見人は必要不可欠な存在なのです。

認知症患者が推定相続人にいる場合、後見人制度を活用することが多くの場面で有効です。

後見人制度を活用するメリット

認知症患者が推定相続人にいる場合、後見人制度を活用すると以下のメリットを受けられます。

  • 適切な遺産分割協議が進められる
  • 相続手続きのトラブル回避につながる
  • 裁判所が関与することで安心感につながる

それぞれ詳しく解説します。

適切な遺産分割協議が進められる

後見人制度を活用する最大のメリットは、認知症患者の財産が適切に保護されることです。後見人が選任されると、認知症患者が誤った判断で財産を失うリスクが低減され、遺産分割協議においても公平な扱いが保障されます。

そもそも、遺産分割協議は相続人全員の同意があって初めて成立します。認知症患者は、自分で適切な判断を下すことが難しいケースも多いため、後見人制度を利用することで平等な遺産分割ができるようになるのです。

相続手続きのトラブル回避につながる

後見人が関与することで、相続手続きにおけるトラブルを回避しやすくなります。認知症患者の意思能力が低下している場合、後見人を選任することで他の相続人との間での紛争が生じにくくなり、スムーズな相続が進行できるのです。

実際には、認知症を患っている人の遺産分割協議への参加はできず、仮に実施をしてもその協議は無効となります。無効と判断されれば、他の相続人と再度協議をしなければならないため、いわゆる争族に発展するリスクも少なくなるでしょう。

裁判所が関与することで安心感につながる

後見人制度では、後見人の選任や後見人の行動に関して家庭裁判所が監督します。これにより、後見人の行動が適正かどうかが確認されるだけでなく、第三者として裁判所が関与するため、安心感を得られるでしょう。

後見人制度のデメリットとして、必ずしも親族が選任されるわけではないという点があります。しかし、裁判所が間に入っているため、選任された後見人が親族でなくても安心して相続手続きを進められます。

後見人制度を活用するデメリット

非常に便利で心強い後見人制度ですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。具体的には以下のとおりです。

  • 選任までに時間と手間がかかる
  • 後見人への報酬が発生する場合がある
  • 後見人と家族で意見が対立する恐れがある

それぞれの詳細を見てみましょう。

選任までに時間と手間がかかる

後見人の選任には、家庭裁判所への申立や診断書の準備など、時間と手間がかかります。申立から後見人が実際に選任されるまでには数ヶ月を要することがあり、その間に相続手続きが滞る可能性があります。審理にかかる期間は1ヶ月以内が47.2%、2ヶ月以内までで78.9%ですが、中には半年以上かかった案件もあるようです。

家庭裁判所は、申立を受理してから審理を行い、後見人制度が必要かどうかを判断します。そのためには当事者の病状や後見人の適性を判断しなければならず、決定までにどうしても時間がかかってしまうのです。特に法定後見制度を利用する場合は、早め早めのアクションが重要になるでしょう。

後見人への報酬が発生する場合がある

後見人制度を活用するには、費用が発生します。後見人の報酬や裁判所への申立費用、さらには弁護士費用などが必要となる場合もあり、これらのコストが家族にとって負担になる恐れがあるのです。特に長期にわたる後見が必要な場合、継続的な費用がかさむ可能性も考えられます。

目安は異なりますが、専門家に依頼した場合は月額2万円前後、財産額・財産の種類によってはそれ以上になる場合があります。また、後見制度は原則途中で止められないため、後見人の職務が終わるまでは報酬が発生する点も理解しておく必要があるでしょう。

後見人と家族で意見が対立する恐れがある

後見人は認知症患者の利益を最優先に行動しますので、家族や他の相続人の意向と対立する可能性があります。後見人の判断に納得がいかない場合、家族間での対立が生じることもあるでしょう。

また、後見人は認知症患者の利益を守るために選任されますが、必ずしも患者の意思を完全に反映することは難しい場合があることも覚えておきたいポイントです。認知症が進行している場合、本人の意向を確認できないケースもあり、後見人が代わりに判断します。しかし、後見人の判断が必ずしも本人の希望通りでない場合があることも理解しておく必要があります。

認知症患者がいる相続をスムーズに進めるためには専門家に相談を

認知症患者がいる相続では、後見人の選任や専門家のサポートが必要です。早めの準備と相談が、スムーズな相続手続きを進めるカギとなります。相続手続きを円滑に進めるためにも、家族全員が協力し、理解を深めることが不可欠です。

認知症患者の権利を守りながら、公正な遺産分割を目指しましょう。相続に関する問題が深刻化する前に、できるだけ早く対策を講じることが、トラブル回避のために非常に重要です。

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大野 博満

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