相続コラム はなまる知恵袋
相続時精算課税と暦年課税の違いとは?賢い贈与の使い分け方
更新日: 2021 . 11.9
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更新日: 2021 . 11.9
相続時精算課税制度は、資産を次世代にスムーズに引き継ぐために利用できる税制優遇措置のひとつです。一般的に贈与には贈与税がかかりますが、この制度を使うと、2,500万円までの資産を贈与税なしで一度に贈与できます。しかし、一度選択すると変更できない制約や、相続税負担が必ずしも軽減されないリスクもあります。そのため、利用には慎重な判断が求められるのです。
本記事では、相続時精算課税制度の仕組みやメリット・デメリット、適用する際の具体的な手順について解説します。どのようなケースで利用が最適かについても紹介します。
税理士/宅地建物取引士
棚田 秀利
[棚田秀利税理士事務所・相続税申告相談プラザひろしま]
相続時精算課税制度は、親や祖父母などが生前に子や孫に対して資産を贈与する際に適用される税制優遇制度です。この制度を利用すると、贈与額が2,500万円までであれば贈与税を支払うことなく贈与が可能です。
高額な不動産や株式など、将来相続される予定の資産を早めに子や孫に譲渡し、相続の際に納税負担を軽減したり、資産移転をスムーズに進めたりする目的でよく活用されています。
贈与に対する課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。この2つは、課税タイミングや非課税枠に違いがあり、用途や状況に応じて選択が必要です。押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
非課税枠 | 課税タイミング | 途中の変更 | |
相続時精算課税 | 2,500万円 | 相続時に相続税として課税 | 不可 |
暦年課税 | 毎年110万円 | 毎年贈与税として課税 | 不可 |
暦年課税と相続時精算課税は、それぞれ異なる非課税枠や課税タイミング、変更の可否といった特徴を持ちます。贈与額が少額で毎年の非課税枠を活用したい場合は暦年課税、一括で大きな資産を移転したい場合は相続時精算課税と、目的や資産規模に応じて使い分けることが重要です。
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が20歳以上の子や孫に対して最大2,500万円まで贈与税なしで資産を移転できる制度です。贈与者と受贈者が直系血族であることが条件で、申告の際に税務署にこの制度を選択した旨を申請する必要があります。
一度適用を選択すると暦年課税には戻せず、以降の贈与も相続時精算課税の対象となります。また、相続発生時には贈与した財産が相続財産に加算され、相続税が課される仕組みです。一括で大きな額を贈与したい場合に適していますが、相続税対策としては慎重な検討が必要です。
相続時精算課税を選択することが有効なケースには、以下のような状況が挙げられます。
上記の条件に当てはまる場合は、相続時精算課税の選択を検討しても良いでしょう。
高額な財産を贈与する際に便利な相続時精算課税制度ですが、メリットとデメリットがあることを忘れてはいけません。それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続時精算課税制度の大きなメリットのひとつは、2,500万円までの贈与を非課税で行える点です。通常、贈与税は暦年課税方式に基づき、年間110万円を超える贈与に課税されます。しかし、相続時精算課税制度を利用すれば2,500万円まで非課税で一度に贈与できます。したがって、まとまった金額の資産を早期に移転したい場合に適した制度です。
特に、土地や不動産・株式といった高額資産を贈与する際、暦年課税では高額の贈与税が発生する可能性があります。相続時精算課税制度を選ぶことで、税負担を軽減しつつ贈与を行えるようになるでしょう。生前に大きな財産を贈与することで、資産の管理を若い世代に引き継ぎ、将来の相続を見据えた計画的な財産移転が可能となります。
相続時精算課税制度を活用することで、資産の早期移転が可能になります。通常、資産は相続発生時に一括で次世代に移ります。しかし、相続時精算課税制度を利用すれば、贈与を通じて生前に資産を次世代へ移すことができるのです。親や祖父母の世代で築いた財産を、子や孫が早期に利用・運用できるようになり、将来の生活基盤や資産活用の幅が広がります。
若い世代が住宅購入や教育資金・事業資金に充てるための資金が必要な場合、この制度を使って早めに支援することで、ライフイベントに合わせた資産の活用が可能です。また、事業承継が必要な家族経営などでは、早期の資産移転を通じて円滑な事業の引き継ぎが図れます。生前贈与によって、財産を計画的に移転しつつ、家族間の財産管理を整理できる点も大きな利点です。
相続時精算課税制度の大きなデメリットは、一度適用すると暦年課税に戻せない点です。この制度を選択すると、以降の贈与すべてに相続時精算課税が適用されるため、年間110万円の非課税枠を利用できる暦年課税方式を再び選ぶことはできません。そのため、少額の贈与であっても毎回贈与税申告が必要となり、煩雑な手続きが続きます。
また、制度選択後に贈与の計画や状況が変わった場合でも暦年課税に戻せないため、制度を選ぶ際には今後の贈与計画や相続全体の税負担を慎重に見極めることが重要です。特に、資産状況や家族構成の変動を考慮せずに相続時精算課税を選んでしまうと、後々計画が制約されるリスクがあるため、適用前の綿密な検討が欠かせません。
相続時精算課税制度のもう一つのデメリットは、相続税の節税効果が期待できない点です。この制度を利用すると、贈与された財産は贈与時点で一旦非課税となりますが、相続時には相続財産に合算され、相続税の対象として課税されます。つまり、早期に資産移転が進められる一方で、相続税の軽減には直接つながらない仕組みになっています。
暦年課税であれば毎年110万円以下の贈与が非課税で行えるため、長期間にわたり少額の財産を分散して移転することで、相続財産を減らし相続税の負担軽減が可能です。しかし、相続時精算課税ではこのような非課税枠がなく、贈与額のすべてが最終的には相続税の対象となるため、節税目的での利用には適していません。そのため、相続税対策として制度を活用する場合は、他の方法と併用する必要がある点に注意が必要です。
相続時精算課税制度には、以下のような使い方があります。
それぞれの詳細を見てみましょう。
相続時精算課税制度は、資産価値の高い不動産を早期に移転したい場合に非常に有効です。たとえば、土地や建物などの不動産は相続時の評価額が増加することが多く、時間が経つほど税負担が大きくなる可能性があります。この制度を活用すれば、贈与時点での評価額に基づいて資産を移転できるため、将来的な値上がりリスクを避けながら、早期の相続対策が可能です。
ただし、相続時精算課税を選択すると、将来の相続時に贈与した不動産の評価額が相続税に加算されます。制度を利用する際には、資産の総額や家族全体の資産計画を十分に考慮する必要があるでしょう。
株式や金融資産を効率的に贈与したい場合にも有効な制度です。株式や投資信託などの金融資産は、市場の変動によって資産価値が大きく変わる可能性があります。これらの資産を相続時精算課税を活用して早めに贈与することで、相続発生時の予測できない市場変動リスクを軽減し、現時点の評価額で計画的に資産を移転することができるでしょう。
一方、相続時精算課税を適用した資産は、相続時に相続財産として合算されるため、贈与額が相続税負担にどのように影響するかを事前に試算することが重要です。また、株式贈与の場合には譲渡時の株価に基づく評価額で税額が計算されるため、贈与タイミングを慎重に選ぶことも大切です。
認知症のリスクに備えて資産移転を早めに行うための手段としても有効です。認知症などによって資産の管理や贈与が困難になると、資産移転や相続手続きが複雑になり、家族が財産を適切に管理・運用することが難しくなります。
この制度を利用すれば、贈与者が健康なうちに最大2,500万円まで非課税で贈与が可能であり、大規模な資産移転を早期に完了させることができます。また、家族信託と組み合わせることで、贈与後も贈与者の意向に沿った資産管理を続けることが可能です。
ただし、相続時精算課税制度を利用した財産は、相続発生時に相続財産に合算されるため、贈与による節税効果は限定的です。認知症リスクを含めた資産管理の目的で制度を活用する際には、他の方法との併用を検討することが重要です。
相続時精算課税制度は、子や孫への教育資金や結婚資金として活用するのにも適しています。学費や結婚資金などのライフイベントにかかる費用は高額になることが多いため、この制度を利用すれば、まとまった金額を一括で贈与し、将来の生活基盤を支援できます。
制度を通じて早期に資金を渡すことで、受贈者がタイミングに合わせて必要な資金を受け取り、教育・結婚といったライフイベントを支援しやすくなるでしょう。また、資産移転が生前に進むため、将来の相続時にトラブルが発生しにくく、家族間の関係も円滑に保つことが期待できます。
ただし、相続発生時には贈与分も相続財産に加算されるため、相続税負担が増える可能性がある点に注意が必要です。節税を目的にするのではなく、あくまで子や孫への早期の生活支援を目的とした資金贈与に適した制度といえます。
相続時精算課税制度を利用するには、所定の手続きを経て税務署へ申請する必要があります。申請の具体的な流れは以下のとおりです。
まずは、贈与者は60歳以上の親または祖父母、受贈者は20歳以上の子や孫であるかを確認してください。その後、贈与対象の財産とその額を決定し、申告書類を用意します。申請期限は贈与を行った年の翌年2月1日~3月15日までです。必要な書類は、次章で解説します。
書類が揃ったら税務署に提出し、申告は完了です。まずは利用できる条件を満たしているか否かを確認し、その後贈与額の決定・申告書類の作成と提出を進めましょう。
相続時精算課税制度を利用して贈与を行った場合、確定申告にて税務署に必要な書類を提出する必要があります。以下は申告時に必要な主な書類の一覧です。
相続時精算課税選択届出書と、贈与税申告書は、いずれも国税庁の公式サイトからダウンロード可能です。事前に用意しておき、必要事項を記入しておきましょう。
なお、場合によっては受贈者の身分証明書や補足資料が必要になるケースがあります。贈与内容によって異なるため、詳しくは税務署や専門家の判断を仰いでください。
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が20歳以上の子や孫に対し、最大2,500万円まで非課税で一括贈与できる制度です。高額な不動産や株式を早期に移転することで、計画的な資産移転が可能になる点が挙げられる点が、大きな魅力と言えるでしょう。
一方、一度選択すると暦年課税には戻せず、贈与した財産は相続時に相続財産に加算されるため、節税効果は限定的です。暦年課税制度とどちらが良いかは判断が難しいため、専門家に相談しつつ、慎重に検討することをおすすめします。
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